自分はなんのために生きているんだろう?答えを探してたどり着いた「世界の果て」【栗山さやかさんインタビュー】

3月8日は女性の権利と政治的・経済的分野への参加を盛り立てていくために国連が制定した「国際女性デー」です。世界で活躍する女性に「男女平等」の在り方や、これまでの活動についてお話を伺いました。今回は、アフリカの恵まれない子供たちを支援するNPO法人「アシャンテママ」を立ち上げた栗山さやかさんへのインタビューをご紹介します。

※本記事は、『ENGLISH JOURNAL』2022年3月号に掲載した内容を再編集したものです。

自分の内面を変えるために世界を周る

――アパレル業界で働いていた栗山さんが、アフリカを拠点に活動するに至ったまでの経緯を教えていただけますでしょうか?

24歳のときに親友を病気で亡くして、生まれて初めて「自分はなんのために生きているんだろう」と考えるようになりました。私はSHIBUYA109のアパレル店員だったこともあり、外見重視や物欲の世界で生きていましたから、「このままじゃいけない、外見でなく自分の内面を変えたい」と思い、バックパッカーとして世界を見てみることにしたんです。

親や友人には反対されました。もちろん私も不安だったので、もしかしたら1カ月くらいで帰国するかもしれないと考えていましたが、結局それから9年間、一度も帰国せずに約60カ国を回ることになりました。

初めにタイに飛んで、そこから東南アジア、中東、東ヨーロッパ、西ヨーロッパを回りました。現地では1泊数百円の安宿などに泊まって、そこで世界中から来た多くのバックパッカーに出会いました。いろいろと話している中でイスラエル人だったと思うのですが、アフリカの国々での彼の経験を聞き、ボランティアをしてみることに決めたんです。

旅をする中でたくさんの人に助けてもらっていたので「何か恩返しをしたい」というのもありましたし、日本に帰国しないといけない理由もない。「時間はあるし人の役に立てるならやってみよう」という思いでエチオピアに向かいました。

「世界の果て」を拠点に

――どのようなことがきっかけで、モザンビークで活動しようと思ったのですか?

エチオピアの施設でボランティアをしていた7カ月の間に、若い女性や子供たちがあまりにあっけなく生涯を終えていくのを何度も目にしました。私は悲しみと共に「どうしてこんなふうに人生を終えることになってしまうんだろう」と考え始め、現地で暮らす人たちの本当の暮らしぶりを自分の目で見るために、アフリカを旅することに決めたんです。

各都市のNGO(非政府組織)やNPO(非営利団体)で短期間のボランティアをしながら旅を続け、南アフリカまで南下し、最終的にモザンビークの北部に入りました。そこは、首都のあるモザンビーク南部に住んでいる人たちから「世界の果て」と呼ばれていて、当時は殺伐とした雰囲気がありました。

「アフリカって意外と安全なんだ」と思い旅を続けていたのが、そこで一気に変わったように感じます。それが「ここに住む人たちの何かサポートができれば」と思う理由にもなり、モザンビークを拠点に「アシャンテママ」の活動をするきっかけになったんです。

アシャンテママで開催した「子供の日」のイベントの様子。

「男女平等」からはかけ離れた現状

――モザンビークの女性たちの立場は、どのようなものでしたか?

モザンビークの首都などではジェンダー平等に関する授業も増えていると聞いていますが、私が活動している地域ではやはり女性の立場はとても弱く、男女平等からはまだまだ遠いところにあります。私が今まで訪れたアフリカの国は10カ国のみ、滞在した地域も限られていますが、前向きに頑張る女性たちにたくさん出会いました。一方で、悲しい現実に生きている女性もたくさんいます。

手当てをした女の子たちにあった痛々しい割礼の痕、家族を養うために売春宿で働く女の子たち、レイプ被害に遭ってHIVに感染してしまった女性たち・・・。妊娠したら赤ちゃんの父親が逃げてしまったという話もよく聞きます。女性であるという理由で弱い立場、厳しい環境で暮らす人がたくさんいます。現地の多くの女性もそれが当たり前の環境になっていて、「平等」について考え及んでいません。

何年か前のニュースでは、半分以上の家で家庭内暴力があると報道されていました。「女性は殴ってしつけるもの」と考える男性もまだ多いのが現実のようです。女性が自立するのはとても難しく、私が活動している地域では畑や建設などの力仕事が主なので、力の強い男性に頼らざるを得ないという理由もあります。

そういった女性の支援の一環として、現地の女性に私たちのスタッフとして働いてもらっています。現在は約20名が私たちと一緒に活動しています。例えば、今モザンビークでリーダーをしている女性は、元々はホームレスでした。HIVと共に生きるシングルマザーです。彼女と似たような環境にある人たちを支援する方法について相談したり、アドバイスをもらったりしています。

アシャンテママで一緒に働く現地の女性たちと。

自分のために活動を続ける

――アシャンテママを立ち上げたきっかけはなんですか?

エチオピアやモザンビークでボランティアを始めた頃は、この活動を長期間続けることは考えていませんでした。「私のこれからも続くであろう長い人生、ほんの一時期でもいいから誰かの手助けができたらいいな」という気持ちでした。

でもあるとき、当時インターネットで書いていたブログの配信料を頂くことができたんです。亡くなった子供たちの話なども書いていたので、「これは私のお金じゃない、このお金はアフリカの人たちに返さなければ」と思ったのも、アシャンテママを立ち上げたきっかけの一つです。

当初からたくさんの人に助けてもらって、24歳の頃に考えていた「生きるってなんだろう」の答えも教えてもらっているような気がしています。自分とは全く違う一生を歩んでいる人たちの人生をそばで見せてもらいながら、私も多くのことを学ばせてもらっていることに、日々感謝しています。

ゼロから始めたポルトガル語学習の様子も

EJ3月号では、栗山さやかさんのアフリカでの具体的な活動内容や、英語とポルトガル語の勉強方法、新しいことを始めたいと思っている方の背中を押してくれる言葉などを紹介しています。

栗山さんの活動を詳しく知りたい方はこちら

栗山さやか(くりやま・さやか)
栗山さやか(くりやま・さやか)

SHIBUYA109 のショップ店員を経て、2006 年からバックパッカーとして約60カ国を旅する。エチオピアでボランティア活動に従事した後、モザンビーク、マラウイでNPO法人「アシャンテママ」を設立。同団体の活動をしながら、現地の国立医療技術学校を卒業し、医療技術師の資格を取得。著書に『渋谷ギャル店員 ひとりではじめたアフリカボランティア』(金の星社)、『なんにもないけどやってみた プラ子のアフリカボランティア日記』(岩波ジュニア新書)がある。

取材・文:古(EJ編集部)

『ENGLISH JOURNAL BOOK 2』発売。テーマは「テクノロジー」

現在、ChatGPTをはじめとする生成AIが驚異的な成長を見せていますが、EJは、PCの黎明れいめい期からITの隆盛期まで、その進化を伝えてきました。EJに掲載されたパイオニアたちの言葉を通して、テクノロジーの歴史と現在、そして、未来に目を向けましょう。

日本人インタビューにはメディアアーティストの落合陽一さんが登場し、デジタルの時代に生きる英語学習者にメッセージを届けます。伝説の作家カート・ヴォネガットのスピーチ(柴田元幸訳)、ノーベル生理学・医学賞受賞のカタリン・カリコ、そして、『GRIT グリット やり抜く力』のアンジェラ・ダックワースとインタビューも充実。どうぞお聴き逃しなく!

【特集】PC、IT、そして、ChatGPT・・・パイオニアたちの英語で見聞する、テクノロジーの現在・過去・未来
【国境なきニッポン人】落合陽一(メディアアーティスト)
【スピーチ&インタビュー】カート・ヴォネガット(作家/柴田元幸訳)、ケヴィン・ケリー(『WIRED』創刊編集長、未来学者)、レイ・カーツワイル(発明家、思想家、未来学者)、ジミー・ウェールズ(ウィキペディア創設者)、アンジェラ・ダックワース(心理学者、大学教授)、【エッセイ】佐藤良明

詳細・ご購入はこちらからどうぞ!

Amazon.co.jp
楽天ブックス

SERIES連載

2024 12
NEW BOOK
おすすめ新刊
キクタンタイ語会話【入門編】
詳しく見る